党提言「変異株による感染再拡大に備えて」
本日(22日)から、千葉県を含めた一都三県を対象とした緊急事態宣言が解除されました。多くの国民の皆様にご協力を頂いていることに、与党の一員として心から感謝申し上げます。一方で、今回の解除については、リバウンドを懸念する声も頂きます。こうした中で、自民党の新型コロナウイルス感染症対策本部、科学技術・イノベーション戦略調査会、データヘルス推進特命委員会の合同会議で検討を重ねてきた「変異株のモニタリング(監視)体制に関する緊急提言」を3月17日にとりまとめ、西村新型コロナ対策担当大臣と田村厚生労働大臣に要望いたしました。それを受けて、菅総理大臣から緊急事態宣言の解除とそのための対策が発表されました。私自身は、この合同会議の事務局としてとりまとめにあたりました。
「変異株による感染再拡大に備えて」と副題を付した私たちの提言につきまして、分量が多いので、エッセンスを盛り込んだ「はじめに」の部分を抜粋し、以下に紹介いたします。とりわけ、変異株を特定するためのPCR検査やそれを受けたウイルスゲノム解析の割合を可能な限り高めていくとしている点がポイントの一つです。
【はじめに】
わが国を含め国際社会は、度重なる感染症による健康危機に対応するために、サーベイランス制度の強化、国内法及び国際規則の整備、国際的連携体制の設立、資金メカニズムの構築、グローバルアクションプランの採択など種々の新たな対策を講じてきた。しかし、それでも今回の新型コロナウイルス感染症については、その世界的な蔓延を阻止するには至らず、多くの人々の不安が未だ解消されない状況が続いている。
とりわけ、目下対応すべき喫緊の課題は変異株対策である。新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」)の起因ウイルスは、約2週間に1度の頻度で、絶えず変異を続けている。昨秋以降、英国型変異株、南アフリカ型変異株、ブラジル型変異株が報告され、既に国内の各所で渡航歴の無い日本人からも検出されており、その頻度も増している。さらに入国者から、新たにフィリピン型変異株も発見されているなど、今後、新たな変異株が海外から移入したり、国内で独立した新たな変異株が発生する可能性がある。その中には感染性や病原性が強かったり、感染の既往やワクチン接種による免疫を逃避する変異株が含まれ得ることも想定する必要がある。
今後、COVID-19の流行を抑制していくためには、変異の発生や頻度を可能な限り、早期かつ広範に把握するため、水も漏らさぬ体制を組んだ上で、ゲノム解析を通じてそれぞれのウイルス特性の同定と分析を迅速に行うことが求められている。
こうした中、変異株に関する現在の監視については、まず、空港検疫においては、渡航者全員に対する検査で陽性となった全例について、国立感染症研究所(以下、「感染研」)で全ゲノム解析が行われている。しかし、各自治体における変異株のPCR検査は、原則として、行政検査の陽性検体のうち僅か5~10%を対象として行われるのみであり、その後行われる全ゲノム解析も必然限られた割合に留まっているのが実情である。これについては、①検査を行う検体の割合が地方衛生研究所(以下、「地衛研」)等の裁量により決められており、変異株の検出割合の推移を科学的に測定できていない、②全ゲノム解析を行う割合が少な過ぎ、変異の大部分が見過されている可能性がある、③検体が採取されてから変異が同定されるまで時間がかかり過ぎる、④変異の有無が分かっても、その後の医療情報が伴わず、その病原性や免疫原性に与える影響を解析することができない、といった重要な点について問題がある。
わが国は既に2度にわたる緊急事態宣言の発出を余儀なくされており、約100年前に1918年~1920年に発生したスペイン風邪以来の、まさに100年に一度の「有事」の状況にある。加えて、本年は、東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定されている中、世界中がわが国のCOVID-19への対応に注目している。したがって、「平時」における対応を前提とした既存の枠組みに捉われることなく、変異に関する有効かつ広範にわたるモニタリング体制の可及的速やかな構築という目的の達成を最優先に、できる限り幅広い主体の参加を求めると共に、各主体が役割を分担し、負担の集中を避け、Win-Winになる環境を整えるべきである。平時の発想に拘泥することには大きなリスクが伴うことを強く認識する必要がある。
昨年のクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号のデータの取扱い等に関する経験もまだ記憶に新しい。特に初動時期において世界が注目する最も重要なデータであり、感染研にデータが集積され、論文もまとめられていたものの、タイムリーに公表されなかったため、世界の専門家との早期の情報共有ができなかった。その経験を今こそ活かし、データの収集・解析・共有に関するわが国の体制を強化し、今後の臨床研究の進化や論文等による早期発信の強化につなげていく必要がある。
以上の観点から、①保健所‐地衛研‐感染研といった既存の枠組みに加え、大学病院等の医療機関、民間検査会社、解析受託会社等との連携を積極的に追求し、官民のあらゆる主体の総力を結集したAll Japanの体制を構築すること、その上で、②変異株PCR検査やその後のウイルスゲノム解析の実施割合を早急に、かつ可能な限り高めていくこと(なお、相対的に新規感染者が少ない局面においては、新規陽性者の全数解析も視野に入れつつ最大限の体制構築を急ぐべきである)、また、③その解析結果等をタイムリーかつ幅広く共有していくことなどにより、コロナウイルス変異株のゲノム・サーベイランス体制を官民の力を合わせて抜本強化すると共に、疫学調査と臨床医療との連携を強化していく必要がある。今後ワクチン接種が本格化し、東京オリンピック・パラリンピックを間近に控えた今こそ、こうした取組を果断かつ即座に実施することを国が内外に示すことで、国民が抱える不安の解消や、国際社会におけるわが国の信頼確保に資するとの認識の下、以下、政府に対し具体的に提言する。(以下略)