国家戦略としての情報インフラ整備について
データドリブン型社会が進行する中で大きな課題になるのは、集積される膨大なデータの送受信速度やデータ処理能力を司る情報インフラの整備です。
すなわち、現行4Gの100倍とも言われる通信速度の5Gが整備されることによって、自動運転やロボット、AI(人工知能)などによる新たなサービスが可能となります。そのために、早急に整備する必要がある重要インフラとしては、①スマートフォン等から無線で情報を受信する5G基地局、②基地局の間を有線で結ぶコア・ネットワーク、③それらの大量データを集積・分析する「クラウド型」データセンターの3つです。
出典:将来のネットワークインフラに関する研究会資料(和田尚也NICT所長)
まず、無線アクセスのポイントとなる「5G基地局」に関しては、米中対立で議論の的となっているファーウェイ社の基地局については、その部品の多くは日本製だと認識しています。現在、移動通信基地局の世界市場の約9割を、ファーウェイ社、エリクソン社、ノキア社、ZTE社が占めていますが、今後、5Gをフルスペックで利用するためには、基地局の数も今の10倍以上必要となります。だとすれば、日本製の5G基地局の展開(少なくとも国内は)を国策として位置付けることも考えるべきではないでしょうか。
今後は、こうした基地局の間をつなぐ「コア・ネットワーク」、すなわち5Gに対応できるだけの通信容量と伝送速度を持つ光ファイバー網の構築が必要になります。こうした光ファイバー網や基地局は、「未来の公共インフラ」です。
莫大な投資が必要になるので、民間企業だけに任せていてはスピーディーな整備は難しいと思います。こうしたインフラ整備こそ、民間企業を巻き込みながらも、国が主導して早急に行うべきと私は思います。
そして、基地局やコア・ネットワークと共に重要なのが、「データセンター」です。
GAFAやBATによる超巨大データセンターの世界市場は2018年第3四半期のみで2.8兆円、前年同期比53%の増加です。とりわけ、Google社やAmazon社は世界中でデータセンターの拡大計画を進めており、四半期ベースで数千億円もの投資を続けています。最近ではGoogle社が2.5億ドルの税制優遇を受けてネバダ州の73万㎡の土地に700億円を投じてデータセンターを新設する予定とも言われています。まさに、データ市場サービスが成長市場であることの証左です。
IDC Japanによれば、日本国内におけるデータセンターの新たな増設投資額は、昨年は約1,500億円です。但し、国内にあるデータセンターは、数としては2014年時点で8万箇所を超えてはいるものの、小規模のもの、老朽化したものも含まれています。コネクテッドインダストリーを実現するためには、クラウド型のデータセンターを増やすことと、その大規模化が重要だと思います。
特筆すべきは、Amazon社が、企業や米政府をはじめ、様々な機関の「機密情報」を管理するサービスを提供している点です。CIAは2013年時点でこのサービスを利用してクラウド化を図り、セキュリティー性とアクセス性の向上に成功しました。また、ペンタゴンにおいても、同様の検討がなされていると言われています。
我が国が、米中に比肩しうるデータドリブン型社会を本気で構築していことするのであれば、政府が取り扱う全てのデータを早急にクラウドに移行していく必要があると思いますし、そのためには、大規模なデータセンターが必要だと私は考えています。
そして、データセンターは電力消費量が大きいのが特徴です(注:現在、小規模のデータセンターが集中している首都圏においては、全消費電力の12%にもあたる電力を消費しているとされています)。したがって、大規模データセンターの建設のためには、大容量の電力を安定供給できる広大な土地が必要です。サーバーや空調など、様々な機器が大量に必要になることから、大きな経済効果が期待できますので、地方にデータセンターを誘致することで、地方創生の一助となることも考えられるでしょう。
現時点において、日本にはAmazon社などに比肩しうる国産プラットフォーマーが存在していない以上、国家としてデータセンターを建設することも考えて良いと思います。
「5G基地局」、「コア・ネットワーク」、そして「クラウド型データセンター」の一体となった情報インフラシステムの整備。大きな構想でありますから、決断するのは役所ではなく、政治だと思います。日本の国家戦略の一つとして速やかに検討し、結論を出すべき課題です。