外国人労働者に対するデジタルマネーでの給与振り込みについて
昨年末の法改正によって、今年の4月から外国人労働者の受入れ拡大が始まります。
この点について、これまでの自民党内の会議や国会審議で私自身がとってきた慎重なスタンスについては過去のブログで紹介した通りです。
法改正後も、政省令等の様々なルールの策定が残っていましたので、残る懸念については可能な限り明らかにすべく心がけてまいりました。
その中で、昨日法務省の政省令が交付され、これから労働者として在留資格を得ようとする外国人の方には「健康診断書」を求めることとなりました。
これまで、私たち日本人の保険料等で運営されている保険制度を利用して、低価格・高品質の医療行為を受けることを目的に日本に短期滞在する外国人の存在が指摘されていました。
党内議論や国会審議でも私自身、政府に提案・要請したことが形になったことは良かったと思います(国によっては診断書を容易に偽造できるかもしれないので、しっかりとした審査が必要であることに変わりはありませんが)。
加えて、今朝の日本経済新聞で、「外国人労働者への報酬については原則として預貯金口座に支払うことを義務付ける」というが報道されています。
実は、少し前に、こうした外国人労働者の中でも「口座開設が困難な外国人」に対しては給与振り込みを(口座振り込みではなく)デジタルマネーで行うことを認める方針が政府によって公表されました。
この点について、私は反対でして、先月の自民党法務部会の場においても、次のような異論を申し述べました。
・一般論として、社会におけるキャッシュレス化を進めていくことに異論はない。しかし、これから大勢入国してくる外国人労働者の給与をデジタルマネーで支払うことを認めることには反対である。
・そもそも「口座開設が困難な外国人」のために、給与のデジタルマネー支払いを認めるとあるが、仮に日本や英語が話せない外国人であっても金融機関が外国語対応は責任をもってやるという方針を掲げている以上、これは口座開設困難という理由にはならない。また、外為法上、預貯金口座の開設には「6カ月以上の滞在」が条件としてあるが、そうであったとしても、日本国内の企業で勤務する場合は口座開設が可能とされているので、これも理由にならない。だとすると、今後受入れを想定している「口座開設が困難な外国人」とは一体どのような外国人を想定しているのか?
・そもそも、現在の「技能実習制度」の下でも、既に年間7,000人以上の外国人が失踪している状況である。在留管理を強化する観点からは、何かあった時に、お金の流れをしっかりと把握できる体制が必要であり、そのためには、せめて預貯金口座の開設くらい義務付けてはどうか?
・また、外国人労働者に限った話ではないが、デジタルマネーによる給与支払いを認めるとすると、こうしたマネーを取り扱う業者は、いわゆる「銀行」ではなく、「資金移動業者」ということになる。預金を取り扱う機関である銀行については、破綻時には預金保険機構によって預金が守られることになるが、資金移動業者は元々は送金を主な業務とするため、こうした制度で守られることはない。問題が生じたときには労働者への賃金支払いが滞るリスクもあるので、外国人労働者の権利を保護することにも反する。
・マネーロンダリングやテロ資金対策でFATF(通称ファトフ。マネロン対策等を担当する国際的な組織)によって様々な規制や勧告がなされているが、資金移動業者の中でこうした規制基準をクリアしているところはそもそもどれくらいあるのか。決して多くないと思われる。
以上の問題提起をしたところ、法務部会の幹部の同僚議員もこの点についてはご存じなかったということで、後日、政府より再度説明ということになりました。
しかし、その後の説明においても、納得できる答えはなく、逆に、デジタルマネーでの給与支払いについては近々、政府内の労働政策審議会で議論が開始され、結論を出す予定であることが判明しました。
既に述べた通り、本件には多くの課題がありますし、そもそもの前提が「口座開設が困難な外国人」の存在にあるわけですから、その前提が崩れている以上、拙速な政策対応は厳に慎むべきです。
その意味で、「外国人労働者への報酬については原則として預貯金口座に支払うことを義務付ける」との本日の報道の詳細を確認したいと思います。
「原則として」義務付けるということは、「例外」が存在するということです。
政省令において、そうした例外が本当に存在するのか、制度が蔑ろにされないように、確認します。