宇宙利用に関する法整備について①
「宇宙」
みなさんの中には、日常生活と遠くかけ離れた空間として捉える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちが、日常において、車を運転する時や街中で店を探す時に使う位置情報はGPSと呼ばれる人工衛星から送られてくるものです。
また、宇宙から送信される画像情報によって、石油タンクの備蓄量や農業の収穫の時期などを判断することができるようになりつつあります。最近では、宇宙旅行の話が報じられる機会も増えてきました。宇宙における人工衛星の利用は、安全保障目的だけでなく、私たちの生活にとってますます重要になってきています。
我が国の宇宙政策は、平成20年に宇宙基本法が制定されて以来、それまでの科学技術・研究開発主導のものから、科学技術、産業振興、安全保障の3つの柱で構成されるようになりました。
一方、かつて宇宙利用は米国と旧ソ連が主導してきましたが、最近では新興国を含め、宇宙を利用する力を持つ国が増えています。特に、中国の発展は著しく、陸と海からなる「一帯一路」イニシアチブに参加する135か国に中国の測位衛星「北斗」の利用を促し、空の一帯一路と言われたり、デジタル・シルクロード構想の主要な柱としても位置付けられています。
こうした中で、我が国の宇宙政策については、やるべきことが山積しているのですが、私が現在関心を持っていることの一つは、宇宙利用に関する法整備です。
上述のように宇宙利用国が増加し、多様化してくると、国際ルールの形成が困難になってきます。新たな条約を作ることは極めて難しい状況であり、ソフト・ローとしての行動規範やガイドラインの作成も容易なことではありません。
我が国政府としても国際ルール・メイキングの場に参加をし、「議論を主導する」というマインドは持っているようですが、宇宙利用に関する国力が他国に比して抜けているわけではない以上、限界があると考えます。
国益に沿う形で国際的なルール・メイキングに関与する力を上げていく方法の一つは、自分たちでできるルール・メイキング、すなわち国内法整備を進めることだと私は考えています。
例えば、宇宙資源に関するルール。
宇宙条約には、「月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない」と規定されています。
では、民間企業が資源を取得する場合、所有権は認められるのでしょうか。
国連の場では、①「禁止されていない以上所有できる」とする国と②「天体の領有が禁止されている以上、その資源も同様に所有できない」とする国に立場が分かれます。我が国としては「国内外の情勢を見つつルール形成に関与」することになっていますが、立場は明確になっていません。
ルクセンブルクは小さい国ではありますが、米国に続いて、既に国内法を整備し、海外のベンチャー企業などを誘致しています。ルクセンブルク政府と月面探査協力で覚書を締結した我が国のベンチャー企業もあります。
我が国が法整備をするにあたっては、政府提出法案(閣法)でやろうとすると、「立法事実」が必要とされるため、実現可能性が更に高まるまで待たなければなりませんが、そうした悠長なことを言っている場合ではありません。
むしろ、立法することによって、実現に向けた動きを加速させていく思考が必要であり、そのためには議員立法で対応することも視野に入れた対応が求められていると考えます。
(続く)