データ利活用を推進するルール整備への挑戦

 米国のGAFA、中国のBATHをはじめ、巨大なプラットフォーマーが登場し、インターネット上のバーチャルデータを独占して覇権を確立しています。この通常国会では、イノベーションを促しつつも、プラットフォーマーによる優越的地位の濫用を防ぐ観点から法案が提出され、審議が行われる予定です。本来であれば、こうした巨大プラットフォーマーに比肩しうる日本企業が出現することを期待したいですが、現時点ではなかなか難しいと感じます。

   

 それでは、これからIoTや5Gの社会が到来する中で、我が国に勝ち目がないかと言えば、決してそのようなことはないと私は考えます。バーチャルデータでは勝負できなくとも、「リアルデータ」の土俵では、我が国には大きな強みがあります。リアルデータとは、個人や企業などの現実の経済活動から得られるデータです。自動車の走行データ、健康・医療データ、工場設備・農業・建設等の現場で蓄積されるデータなどをイメージして頂くと良いかと思います。収集される膨大なリアルデータの利活用を進めることで、新たな事業創出や、イノベーションによる産業の発展が期待されます。

   

 身近な例を挙げると、「コネクテッドカー」(※)。事故発生時にエアバッグ作動と同時に警察や消防へ緊急連絡をするシステム、盗難車両の追跡を可能とするシステム、安全運転のレベルを計測するシステムなどが搭載されるようになってきました。その安全運転の水準に合わせて保険料が変動するテレマティクス保険と呼ばれるサービスも生まれています。また、莫大な走行データを駆使して、カーシェアやライドシェアに活かしたり、公共交通機関と連携して移動の最適化を図る動きが出てきています。

※ ICT端末としての機能を有する自動車。車両の状態や周囲の道路状況などの様々なデータをセンサーにより取得し、ネットワークを介して収集・分析することで新たな価値を生み出すことが期待されています。

    

 また、世界に誇る国民皆保険制度の下に集められている健康・医療データ。妊婦健診、乳幼児健診、学校健診、事業者健診、特定健診等、生まれる前から人生の終焉に至るまで、様々な健診・検診データもあります。これらのデータを利活用することにより、新薬の開発促進、重複する検査や投薬の回避、緊急時・災害時における個人の既往歴の把握による適切な対応、個々人の健康意識の向上などの効果が期待され、更には、医療費全体の効率化が図れることになります。

     

 既に米中はバーチャルデータからリアルデータの分野でも覇権を目指し、世界中でリアルデータの争奪戦が始まる中で、我が国の場合、リアルデータの収集、社会実装、産業化に強みがあり、またそのリアルデータの種類や信頼性が高いと言われている一方で、それらのビッグデータ化(クラウド化)、分析(AI)、そのデータを利用したソフトウェアの開発などが他国に比べて遅れているのが現状です。

     

 我が国がイノベーションのエコシステムを構築し、世界をリードするためにも、各分野におけるリアルデータのプラットフォームを作り、そして、データの利活用を促進するルールを整備する必要があると考えます。データの知的財産としての位置付け、データのオーナーシップ(誰に帰属するのか)、オープン・クローズのルール、同時に民間による収集したデータの分析、ソフトウェアの開発などの推進策など、論点は多岐にわたるでしょう。

 こうした点について、私が事務局長と務める自民党知的財産戦略調査会で問題提起をし、林芳正会長にも問題意識を共有して頂き、昨年から既に議論をスタートしています。

     

 多くの政策課題と異なり、本件については有識者が殆ど存在しません。政府においても議論の蓄積はありません。世界のどの国もまだルールを確立するどころか、議論が進んでいないので当然です。だからこそ、世界に先駆けてルール整備を行う価値がありますし、昨年のG20サミットでDFFT(Data Free Flow with Trust = 「信頼性のあるデータの自由な流通」)を議長国として提唱した我が国こそがその役割を担う責任があります。

      

 曖昧模糊としていて、手探りの状況の中での議論・検討ではありますが、データのユーザーの意見などにも耳を傾けつつ、自民党が主導して方向性を打ち出し、できる限り具体的な形をつくっていきたいと考えます。

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